研究概要 |
様々な機能をもつカーボンアロイ材料の開発には,カーボンアロイがもつ諸特性の起源を電子・分子レベルで把握することがポイントであり,本研究では世界最高強度の軟X線が得られる米国,ローレンスバークリ国立研究所の高輝度放射光施設を利用した高分解能軟X線分光法によって,この電子・分子構造の解明に挑戦した。 具体的には,基礎研究として標準的カーボン物質の分光データの蓄積と,その応用研究としてカーボンアロイ系工業材料の軟X線状態分析を進めた。各研究項目の概要を以下に示す。 1.基礎研究:分光データの蓄積 (1)固体有機化合物の軟X線発光・吸収スペクトル測定技術の確立:典型的な固体有機分子を測定対象として,軟X線発光・吸収スペクトル測定における入射光強度の補正方法と角度依存測定の評価方法を確立した。 (2)多環式化合物の軟X線発光・吸収スペクトル測定:カーボンアロイの構成要素として多環式化合物に着目し,この電子状態を調べた。その結果,六角網面の大きさと発光スペクトル形状の間には系統的な関係があることを見出すとともに,五員環が六員環に隣接するとπ電子の電子状態の非局在化が抑制される傾向があることを見出した。 2.応用研究:工業材料の軟X線状態分析 (1)いぶし瓦表面炭素膜のキャラクタリゼーション:兵庫県の伝統的工業製品であるいぶし瓦の品質向上に資するため,この表面炭素膜を分析した。その結果,製造過程における斑状欠陥は,ランダム構造炭素の割合が増加することに起因することを明らかにした。 (2)BxC/Ru多層膜X線ミラーにおけるBxC層のキャラクタリゼーション:マグネトロンスパッタ法で作製されるBxC膜の構造を分析した結果,化学組成比xは4であるものの,標準的なB_4C結晶とは異なるB-C置換型の非晶質構造をとることを明らかにした。
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