研究概要 |
本研究では、sp^2炭素原子から酸素原子へのケイ素原子の転位反応を利用する有機銅活性種の調製と、その有機合成における最も基礎的反応である炭素-炭素結合生成反応への応用を検討した。o-(1-ヒドロキシアルキル)アリールシランに銅(I)tert-ブトキシドを作用させるとBrook型転位反応が進行してアリール銅活性種が生成し、引き続くハロゲン化アリル誘導体との反応でカップリング生成物が得られた。一級アルコールのo-(1-ヒドロキシメチル)フェニルシランを用いた反応ではカップリング生成物の収率が著しく低下することから、シリカートの形成に有利なケイ素原子とヒドロキシル基が近接した立体配座から反応が進行することが明らかになった。このアリール銅活性種はハロゲン化アルキルおよびベンジルとも反応し、対応するアルキルおよびベンジル化生成物を良い収率で与えた。また、銅(I)塩を当量以下に減らしても反応は収率よく進行し、反応が銅(I)塩によって触媒的に促進されることが判った。 本年度は1,3 Csp2-to-Oシリル転位についても研究を行った。銅(I)tert-ブトキシド存在下β-トリメチルシリルアリルアルコールとハロゲン化アリルの反応ではO-アリル化生成物の副生を伴うものの、β位がアリル化されたカップリング生成物が得られることを見出した。一方、β-トリフェニルシリルビニルシランとの反応では高い収率で選択的にβ位でカップリングした生成物が得られ、これまで合成に利用することができなかった1,3 Csp2-to-Oシリル転位によって生成するビニル金属を銅(I)アルコキシドを用いることで合成的に活用できることが明らかになった。また、ハロゲン化アリルを加えずに反応を行うと、アルカリ金属アルコキシドからは困難なPeterson脱離が進行し、アレン誘導体が生成した。
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