研究概要 |
今まで、Ir錯体のハロゲン配位子を系統的に変え、触媒活性や不斉収率の検討が行われた研究例は少ない。これまであまり注目されていなかったハロゲン配位子の効果に注目し、分子状水素を水素源とするIr錯体による触媒的不斉水素化の検討を行った。 1.IrX(H)(O_2CR){(S)-binap}の合成と構造:トルエン中室温で、[IrX(cod)]_2(X=Br、I)に対し、2当量のBINAP、続いて過剰量のカルボン酸を反応させると酸化的付加生成物、IrX(H)(O_2CR){(S)-binapがそれぞれ66%、80%の収率で合成できた。これらの錯体には、Ir周りの絶対配置の違いにより複数のジアステレオマーが存在するが、p-メチル安息香酸を用いたときに得られる錯体IrX(H)(O_2CC_6H_4-p-CH_3){(S)-binap}(X=Br,I)は、IrCl(H)(O_2CC_6H_4-p-CH_3){(S)-binap}錯体と同様、ジアステレオマーが高立体的選択的に得られる。X線構造解析の結果から、OC-6-23-Aの絶対構造であることを明らかにした。 2.基質に2-Phenyl-1-pyrrolineを、触媒前駆体にIrX(H)(O_2CMe){(S)-binap}(X=Cl,Br,I)を用いて、不斉水素化を基質/Ir=100,水素圧60気圧、20℃、18時間の条件で行った。Cl,Br,Iの順に従って、触媒活性は2138,47%の順で活性が上がる。不斉選択性は85,89,86%を示し、ハロゲン配位子に大きな差が見られない。上記の条件で、2-Phenyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineの基質の場合、93,94,92%eeを示しハロゲン配位子による差は見られない。沃素Ir錯体の場合、基質/Ir=1000〜2000でも高い活性を示し93%eeを示した。 3.IrX(H)(O_2CR){(S)-binap}のカルボキシラト配位子による不斉選択性への影響は見られない。 4.IrX(H)(O_2CMe){(S)-binap}のCD_3CO_2Dによるラベル実験を行った。アセタートのメチル基とヒドリドの水素がそれぞれ12%、88%の重水素化率を示し、溶液中アセタート配位子の還元的脱離を伴っていないことを示唆した
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