本研究では、我々が最近開発したフルオラス相の性質を利用した新規合成手法、すなわちフェイズバニシング(PV)法の適応範囲について検討した。PV法とは、フルオラス相内の試薬の緩慢な拡散を利用した反応手法であり、反応時に滴下速度の調整や温度制御を必要としない、簡易で効果的な方法である。前年度において、パーフルオロヘキササン(FC-72)がPV法の液相膜として優れていることが分かり、本溶媒を用いてオレフィンの臭素化など数種類の反応を試みた。本年度は、PV法について(1)他の反応例への適応、(2)選択的臭素化、(3)FC-72を越えるフルオラスメディアの探索、の3点について検討した。その結果、(1)臭化チオニルを用いたアルコールの臭素化、ジヨードメタンを用いたシクロプロパン化、四塩化チタンを用いた向山アルドール反応などを行った。(2)オレフィンの臭素化においてPV法とフラスコを用いる従来法で反応性に違いが出るかどうか検討した。その結果、溶媒を用いずに基質のみで反応させると、ジアステレオ選択性が向上することを見いだした。(3)液相膜としてFC-72は優れているが、沸点が比較的低く回収率が下がる点や、脂肪族の基質を用いてパラレル合成を試みると、コンタミネーションが並行するなどの欠点がある。そこで、より高機能の反応膜求めて、フルオラス溶媒を探索した。ペルフルオロメチルシクロヘキサン(PFMC)やペルフルオロデカリンなどは沸点が高く、基質のコンタミネーションも抑えられるが、臭素の拡散が遅く、反応完結に長時間を要することが分かった。そこで、ペルフルオロポリエーテル(Galden HT135:沸点135℃)を試したところ、拡散速度も速く、溶媒の回収も定量的であり、FG72を越える優れた溶媒となりうることが判明した。
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