研究概要 |
水を多量に含みながら硬く弾性のある固体を形成する多糖類を電気化学測定の固体媒体や色々なデバイスに応用することを目的として,ここではその固体中の高速分子拡散と電荷伝搬などの基礎的挙動の解明に焦点を絞り,研究した. 水を多量に含むアガロースやカラゲニンの固体を電気化学測定の固体媒体として用い,ヘキサシアノルテニウムや鉄の錯体,メチルビオロゲン,Ru(bpy)_3^<2+>錯体などの多糖類固体中分子拡散係数を,サイクッリクボルタモグラムと交流インピーダンス法により測定した.Ru/Fe(CN)_6錯体やビオロゲンのような小さい分子は,固体中にもかかわらず水溶液中とほぼ同じ大きな拡散係数を示すという,極めて興味深い結果を得た(10^<-5>cm^2s^<-1>オーダー).一方,大きなRu(bpy)_3^<2+>などは水溶液中より拡散係数は小さく,分子の大きさにより拡散速度や(恐らく反応性なども)制御できるという今後の反応設計にとって重要な結果となった.これらは,本固体が特殊な固体リアクターとして用いることができることを示すものである. さらに特異な現象として,このような固体中では,ナノスケールでは液体の挙動を示すにも関わらず,液体中では重力の影響で必ず起こるバルクの自然対流が,起こらないという事実を見出した.多糖類固体中での分子の3次元的及び2次元的拡散は,対流に影響されず分子の自己拡散のみによることを実験で明らかにした.これは,地球上では重力のため,バルク自然対流は必ず起こるのに,本固体中では無重力化と同様に起こらないことを示したもので,このように液体と同じ性質を持つのに自然対流は起こらない固体を反応リアクターとして用いることにより,新しい化学反応,色々な反応制御,これまでとは異なる反応動力学が生まれると確信される.予備的な実験として,本固体中では通常の水溶液中よりはるかに大きな酒石酸ナトリウムの単結晶が得られた.
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