本研究の目的は、カーボンナノチューブ(CNT)薄膜の作製法として、超分子的手法を確立することにある。現在、CNT薄膜の作製法としては、化学気相法によるCNT薄膜の直接合成やバインダーと混ぜて塗装する方法が知られている。我々は、新規な作製法として、化学的相互作用に基づく吸着を利用して、CNT自体に自己組織的に膜を形成させる方法を提案した。これは、CNTがアミノ基と特異的に相互作用することと、CNTの分散液が不安定であることを組み合わせた手法である。水中で分散されたCNTは不安定であり、徐々に自己凝集してしまう。そこで、表面にアミノ基を持つ物体(鋳型)を導入すると、CNTはアミノ基で覆われた表面の方により速く、より多く凝集するようになる。また、一旦吸着したCNT膜を乾燥させると、CNT同士が強くファンデルワールス接合するようになり、再び分散液に浸しても剥れなくなる。吸着-洗浄-乾燥のサイクルを繰り返すことで、膜をより厚く積層することが可能となり、ナノメータレベルの膜厚制御ができる。 膜は、細長い形状のCNTにより構成される。したがって、膜の物性は、CNTのつながり方とその密度により制御されると期待される。本研究では、鋳型に平板ガラスを用いて、この手法で作製されたCNT薄膜のつながり方を調査した。まず、ガラス基板表面のアミノ基について、アミノプロピル基、L-リシン基、ジアミノアルキル基を検討した結果、ジアミノアルキル基が最も均一に、多量のCNTを吸着させることがわかった。これは、基板表面のアミノ基密度と親水性が重要であることを示す結果である。続いて、CNT分散液の濃度を変えたときのCNT吸着量と表面電気抵抗値を見積もった。吸着-洗浄-乾燥のサイクルを繰り返す度に、双方とも増加したが、その増加量は徐々に減少した。特に、表面電気抵抗値は、初期のサイクルでは吸着量が増加するにつれ減少するが、ある程度積層すると、ほとんど一定となった。これは、以下のモデルで説明できる。初期のサイクルでは、CNTが次々と基板表面に吸着し、ネットワークをより密にしていくので表面電気抵抗値は減少する。ある程度CNTが基板表面を被覆するようになると、次のCNTは基板表面よりも既に吸着しているCNTに吸着するようになり、ネットワークを繋ぐCNTの束が太くなるが、ネットワークの密度には貢献しない。したがって、表面電気抵抗値は接触抵抗で一定となる。CNT薄膜が自己集積され強固なネットワークを作成する要因はファンデルワールス引力なのであるが、同じ力がネットワークの穴を埋めるよりもCNT同士を接合させる方向へ働いていることが判明した。
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