カーボンナノチューブ(CNT)は、分子構造の僅かな違いにより、金属にも半導体にもなる、ナノテクノロジーの中核的素材である。金属チューブは銅よりも大きい最大電流密度で導電が可能であるが、現在の合成法では、全てのCNTサンプルは金属:半導体比が1:2の自然比で半導体を含む。また、CNTは化学的に非常に安定で不活性な表面を持つ。よって、ほとんどの物質に対して濡れ性が極めて悪く、分散や混合、接合しない。 CNTの薄膜は、導電性の向上、半導体特性の制御、電子エミッター、放熱基板など、多くの応用が期待されるのであるが、この濡れ性の悪さが薄膜作製に大きな問題を生じている。現在、CNT薄膜の作製法としては、化学気相法によるCNT薄膜の直接合成やバインダーと混ぜて塗装する方法が知られている。今回の研究で、我々は、化学的相互作用に基づく吸着を利用して、CNT自体に自己組織的に膜を形成させる方法を検討した。水中に超音波分散されたCNTは熱力学的に不安定で、徐々に自己凝集してしまう「速度論的にのみ安定な状態」にある。そこに、表面にアミノ基を持つガラス基板(鋳型)を浸漬すると、CNTは自己凝集するよりも速くアミノ基で覆われた表面の方に凝集するようになる。また、一旦吸着したCNT膜を乾燥させると、CNT同士が強くファンデルワールス接合するようになり、再び分散液に浸しても剥れなくなる。吸着-洗浄-乾燥のサイクルを繰り返すことで、膜をより厚く積層することが可能となり、ナノメータレベルの膜厚制御ができる。 昨年度の研究から、ガラス基板表面のアミノ基には、ジアミノアルキル基が最も均一に、多量のCNTを吸着させることがわかった。CNT分散液の濃度を変えたときのCNT吸着量と表面電気抵抗値から、我々が制御できる最小CNT濃度ですでにパーコレーションが起こっていることが判明した。理論的に解析した結果、1平方ミクロンあたり2本以下のCNT密度ですでにパーコレーション閾値を超えていることがわかり、2次元における棒状導電体によるネットワークの効率性の良さを再認識させられた。AFMによるCNTネットワークの占める割合と網状CNTネットワークの太さの測定から、ある程度表面がCNTで被覆されると、それ以降の積層は空間を埋めるのではなく、ネットワークを太くするというこれまでの我々のモデルを支持する結果が得られた。
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