研究概要 |
主な研究成果は次の3つにまとめられる。 1.一入力信号による信号変換型の蛍光の制御は十分可能であり、例えば電子授受による蛍光のオンオフは分子スイッチとして応用できる。蛍光の切り替えという点から見ると、電気化学的および分光学的に不活性なポリマーに色素分子を固定する方が発光特性の点では優れているけれども、長時間の繰り返し中に色素分子が膜中から溶液中へ抜ける傾向があるので、色素の重合膜を用いる方が適している。他方、ゲスト濃度による電子信号や蛍光の変化は分子認識に活用できる。 2.化学的相互作用の信号化には問題点が多いけれども、電気化学的酸化と還元、ゲストの有無を組合せて蛍光出力をオンオフすれば、原理的にはANDとORゲートを実現できる。 アジン類色素の発光を制御するための化学信号としては水素イオン、1,1'-フェロセンジメタノール、NADH,ドーパミンなどが候補として挙げられるが、水素イオンは高濃度の変化が必要なので、高速の切り替えが難しい欠点をもつ。1,1'-フェロセンジメタノールは感度、選択性の点で優れているが、現状では色素活性の再生が困難なので、分子間相互作用の機構の解明を待たなければならない。NADHとドーパミンは相互作用が穏やかで感度も高いので化学信号として期待がもてるけれども、色素の分光学的性質に対する効果がまだ十分に検討されていない段階なので、今後も引き続いてこの点の実験を継続する必要がある。 3.現在までの研究結果によると、化学情報を入力に用いるシステムは高速化があまり期待できない情勢である。したがって、励起光の波長の変化をも入力信号に使用して発光を制御するシステムの方が、論理回路の構築に適すると推測される。励起光の波長を変化させれば3入力素子になるので、今後は応答速度を考慮に入れた電気化学システムの開発へ研究を展開する計画である。
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