研究概要 |
分子認識素子に光応答性部位を付与すると分子認識過程を光で読みだすことができる。特に蛍光による読み出しは高感度であることが特徴であり、生体系で重要なカチオンの検出に多用されている。そこで、水中で高感度、高選択的に金属イオンを蛍光で検出できる人工ホスト分子の開発を目的として以下の検討を行った。 まず、我々が開発した合成法に従い、cis-2,12-ジメチル-2,12-ビス(トシルメチル)-18-クラウン-6とジエタノールアミンから塩基存在下で環化反応を行い、N-未置換モノアザクリプタンドを合成した。さらに2-ピレニルメチルブロミドでN-アルキル化し、対応するピレニルメチル基をもつモノアザクリプタンド誘導体(1)を新たに合成した。化合物1は、光励起されると、窒素原子からピレン環へ光電子移動(PET)が起こり、蛍光発光が阻害される。ここで、クリプンド環と錯形成する金属イオンが存在するとPETが阻害され、蛍光強度の増加が観察される。この機能により、金属イオン選択性を示す蛍光認識素子として利用可能となる。クリプタンドが示す高い錯形成能をもってしても、水中での蛍光強度は低い値にとどまったが、ここにTritonX-100非イオン界面活性剤ミセルを共存させることにより、金属イオンに応答して大きく蛍光強度が増加することがわかった。化合物1は、アルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンの中ではバリウムイオンに対して特異的に応答した。これは、クリプタンドの環サイズと金属イオンサイズの適合性に対応している。なお、同じくピレニルメチル基をもつモノアザ18-クラウン-6ではミセル共存下でも蛍光強度の増加は観測されず、錯形成能の強さが重要であることが示唆された。
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