研究概要 |
分子認識素子に光応答性部位を付与すると分子認識過程を光で読みだすことができる。特に蛍光による読み出しは高感度であることが特徴であり、生体系で重要なカチオンの検出に多用されている。そこで、高感度、高選択的に金属イオンを蛍光で検出できる人工ホスト分子の開発を目的として以下の検討を行った。 ピレニルメチル基をもつモノアザクリプタンド誘導体(1)は、光励起されると、窒素原子からピレン環へ光電子移動(PET)が起こり、蛍光発光が阻害される。ここでクリプンド環と錯形成する金属イオンが存在するとPETが阻害され、蛍光強度の増加が観察される。この蛍光認識素子にTritonX-100非イオン界面活性剤ミセル水溶液を共存させると、Ba^<2+>に対して特異的な応答を示すことを見いだした。 同様に、ピレン環を末端に有する二本のオキシエチレン型配位性側鎖が同一炭素を起源とする16-クラウン-5誘導体(2)および二本のオキシエチレン型配位性側鎖が異なる炭素に結合し、かつ二本の側鎖の位置関係がtransもしくはcisとなる15-クラウン-5誘導体(3)を合成し、金属イオンとの錯形成挙動を蛍光スペクトル法により検討した。フルオロフォア2,3ともに、モノマー発光に加えて大きなエキシマー発光を示した。これにより、金属イオンを添加する前では、分子内の二つのピレン環がπ-π相互作用により近づいており、分子内エキシマーを形成しやすいことが示された。フルオロフォア2とtrans-3においては、Ca^<2+>濃度が増加するに従って、エキシマー発光が減少し、モノマー発光が増加した。これは、オキシエチレン側鎖の一つが金属イオンとの配位に関与し、分子内エキシマー生成が阻害されたことによると考えられる。配位性側鎖のオキシエチレン鎖長を変えることにより、アルカリ土類金属イオンに対する選択的応答が得られた。
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