脂質分子によって水中で形成される分子集合体は二重膜構造のみならず多彩な組織化構造、いわゆる非二重膜構造を示す。脂質膜の代表的な非二重膜状態は、インターデジティテッドゲル(指組みゲル)相、ヘキサゴナルII相およびキュービック(立方)相である。本年度は溶質添加によりインターデジティテッドゲル相を形成することが知られているホスファチジルコリン(PC)二重膜に対してリガンド認識に関する研究を行い。下記の結果を得た。 1 ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)二重膜への局所麻酔薬および長鎖脂肪酸の効果を示差走査熱量法並びに光透過法により調べた。ジブカインやテトラカインのような疎水性の強い局所麻酔薬は麻酔薬分子の有する疎水性に依存してインターデジティテッドゲル相を誘起したが、長鎖脂肪酸は大きな疎水性を有するにもかかわらずインターデジティテッドゲル相を誘起しなかった。 2 DPPC二重膜への4種類のブタノール異性体の効果を光透過法により調べた。リジッドな分子構造はインターデジティテッドゲル相形成に大きな影響を与え、分枝した分子より直鎖状分子の方がインターデジティテッドゲル相形成に有利に作用した。また、インターデジティテッドゲル相誘起以前の濃度領域においてインターデジティテッドゲル相を包含したラメラゲル相あるいはリップルゲル相との2相共存領域を見出した。 3 蛍光プローブProdanを混合したプローブ混合脂質膜を使用してDPPCおよびジヘキサデシルホスファチジルコリン(DHPC)二重膜へのコレステロール添加効果を常圧下および高圧下において追跡した。コレステロール添加によりインターデジティテッドゲル相の形成領域は急激に縮小し、高濃度コレステロール存在下ではインターデジティテッドゲル相は消失した。
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