研究概要 |
初年度はモデル構築および計算プログラムの開発と一部計算結果を得ることにその主眼が置かれた.得られた結果の要約は以下のとおりである. 1.非希釈コロイド分散系のシミュレーションに際して,計算時間の大幅な短縮化が計れる新しいストークス動力学法であるcluster-basedストークス動力学法の構築を行った.ついで,単純せん断流中における凝集構造と粘度に着目し,実際にシミュレーションを行うことにより,本方法と従来の力加算近似による方法ならびに流体力学的相互作用を無視した方法との比較検討を行った.得たる結果は次のとおりである.初期状態からの推移特性に関して,従来の方法による値と非常によく一致する.また,2体相関関数および粘度の結果から,定常状態においても,本cluster-basedストークス動力学法は従来の方法による結果とほぼ一致する結果を与える.cluster-based法による計算時間は,従来の方法に比べて約1/14から1/70倍程度で済み,圧倒的な計算時間の短縮化が計れる.以上より,N=1000やN=10000のような大規模系を対象とせざるを得ない強磁性コロイド分散系のミクロ・シミュレーション法として,本cluster-basedストークス動力学法は,従来の方法に比べて圧倒的に優れていることが結論づけられる. 2.コロイド粒子間の多体流体力学的相互作用を,流体を構成する分子をある程度ひとまとめにした仮想粒子である散逸粒子とコロイド粒子の相互作用により再現できる散逸粒子動力学法の妥当性の検討を行った.まず,散逸粒子の運動方程式から出発して,理論的に運動量および散逸力に基づく粘度の表式を導出した.ついで,非平衡動力学法を用いたシミュレーションを行うことにより,散逸粒子の運動方程式に現れる諸パラメータの影響を詳細に検討した.得られた結果より,散逸力に基づく粘度の場合,H-K理論における粘度の理論値と非平衡動力学シミュレーションによる値は粒子数密度が非常に小さいときを除いて非常によく一致することがわかった.シミュレーションにより物理的に妥当な結果を得るためには,時間きざみ,数密度,ずり速度,系の粒子数などの値の選定に際して制約条件がある.以上より,メゾスコピックなシミュレーション法である散逸粒子動力学法は,コロイド分散系の多体流体力学的な相互作用を考慮したシミュレーション法として有望な方法であることが明らかとなった.
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