研究概要 |
超伝導発現を目指して、従来研究されてきた有機ドナー分子であるテトラチアフルバレン(TTF)やテトラチアペンタレン(TTP)誘導体の共役π電子系を縮小した新たなドナー分子の開発と、それを基にした電荷移動型ラジカルカチオン塩の物性研究を行なってきた。有機ドナー分子のπ電子系を縮小することは、同一分子上に電荷が存在した際生じるクーロン反発,つまりオンサイトクーロン反発を、増大させることになり、化学的な分子修飾によって、電子相関を強めることが出来る。これまでに、TTFの縮小π電子系であるDODHTから2種類の超伝導体を発見している。本研究課題の業績として、DODHTからなる超伝導体を新たに発見したこと、TTP系縮小π電子ドナーの新合成法の開発、DODHT超伝導体の常圧における絶縁相、(DODHT)_2PF_6の温度-圧力相図の作製などが挙げられる。超伝導体である(DODHT)_2PF_6の相図を明らかにした結果、13.2から13.7kbarの圧力範囲において、超伝導状態と常伝導状態が部分的に共存していること、13.2から15.1kbarの圧力範囲では、超伝導相の直上に絶縁相が存在していることが分かった。さらに、この塩は常圧で電荷秩序絶縁相を持つが、電気抵抗の温度依存性において電荷秩序による明瞭な絶縁化が8kbarまで観測されたことから、電荷秩序状態が相図上この圧力付近まで存在しているものと考えられる。このことは、電荷揺らぎが超伝導発現にとって重要な役割を演じていることが示唆さしている。このように、本研究課題では、DODHT超伝導体が電荷秩序ひいては電荷揺らぎと超伝導との相関を考える上で、より普遍的な研究の舞台を提供しうる系であることを示すことができた。今後圧力下におけるより詳細な物性測定を行う必要がある。 分子性導体の開発と物性研究と平行して、TTFをドナー成分に,C_<60>フラーレンをアクセプター成分に用いたドナー-アクセプター系分子の開発とそれらの有機デバイスへの応用可能性について検討した。基底状態において分子内電荷移動相互作用が存在する新規C_<60>-TTFダイアッド分子の励起状態のダイナミックスを明らかにした結果、この系では電荷分離状態の寿命が非常に短く、有機太陽電池などのデバイス化には不利であることを明らかにした。この状況を打開するため、デンドリマー構造を導入した物質を第一世代(G1)から第三世代(G3)まで合成しに成功し、この系が変換効率は低いながらも、太陽電池特性を示すことを見出した。変換効率が低いことは、可視領域の光吸収が高くないことが要因に挙げられる。今後より吸光度が大きい部位の導入を検討する必要がある。
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