研究概要 |
核酸と相互作用することによって核酸の機能を制御する機能性物質の開発を目的として、水溶性ポルフィリンの合成を行なった。分子設計に際して、核酸塩基との相互作用(π-πスタッキング)を阻害すると考えられる立体障害を取り除くため、メソ位に置換基を持たないタイプの化合物を目的化合物として選択した。まず、対称性の高いメソ無置換の水溶性ポルフィリンとして最も単純な構造を持つと予想される、オクタヒドロキシルポルフィリンAをオクタアルコキシポルフィリンから合成した。Aは比較的高い水溶性を示したが、複数の電子供与性基の置換により酸化に対して極めて不安定であり、核酸との相互作用の測定中に水に不要な化合物となり沈殿してしまうため、物性測定は不可能であった。そこで、水酸基のかわりにカルボキシル基を置換した化合物の合成について検討した。ただし、カルボキシル基は電子吸引性であり、ポルフィリンのスタッキング能を減少させてしまうため、それをカバーするためにポルフィリンのβ位にベンゼン環の縮環したベンゾポルフィリンタイプの化合物にカルボキシル基を置換した化合物を目的化合物Bとした。前駆体ポルフィリンとしてビシクロオクタジエン環が縮環した化合物Cが得られるため、B, Cの両方の水溶性ポルフィリンについて、核酸の高次構造のうち、発ガンやその他の疾病の発症をつかさどっている遺伝子のテロメア部分に多く存在するG-カルテット(四重鎖核酸)との相互作用について調べた。立体構造から予想される通り、化合物Bでは立体障害が大きく、またスタッキングに関わるπ電子数が少ないために核酸との相互作用は見られなかったが、化合物Cについては数種類の四重鎖核酸構造のうち最も立体障害の少ないパラレル型四重鎖を形成する配列(d(TG_4T))から生じた四重鎖核酸に対してのみ、選択的な相互作用が見られることが明らかとなった。
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