研究概要 |
錯形成と水素結合の共同効果による動的機能性を持ったリガンドを構築することを目指して、フェロセンの1,1'-位に、末端にビピリジンを持つエーテル鎖を二本結合した化合物を合成した。この化合物と一価の銅イオンとの錯形成により生じた擬クラウン型錯体をメタロホストとして、オニウム塩の捕捉について検討した。ホスト分子が錯形成により形成する擬クラウンエーテルは、その空孔内にオニウム塩をゲストとして1:1のモル比で取り込むことがESI-MSおよびUVスペクトルにより確認された。また、NMRでは、オニウム塩の取り込みによりビピリジン部分のスペクトルが完全に消失すること、およびゲストを加えない状態ではESRスペクトルはサイレントであるのに対し、ゲストの添加により特徴的な二価の銅に由来するピークが検出されたことから、このホストはオニウム塩の捕捉によって構造が変化し、銅が一価から二価へと酸化されることを明らかにした。この現象は、ゲストの取り込みによるひずみを引き金として、ホスト分子の構造が変化することにより、銅の配位場が正四面体形から平面四角形へと変化したことを示している。また、ゲストを取り込んだ状態での構造について、種々のオニウム塩を用いて検討したところ、このホストの分子認識は、ゲスト分子全体をターゲットとしているのではなく、擬クラウン部分にオニウム塩が突き刺さる形で認識されていることが分かった。さらにこのホストのもつエーテル鎖が1級アミンがプロトン化されて生じるオニウム塩にフィットするサイズであることから、テトラメチルアンモニウムのような4級オニウム塩は取り込み効率が低く、会合常数は一桁程度小さいものとなった。
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