分子結晶の物性研究と合成にずれ応力効果を用いた方法を導入するために、回転機構を備えたDAC型高圧装置を用いて、薄膜試料に対するずれ応力効果を調べた。 1.ニッケルジフェニルグリオキシマート錯体Ni(dpg)_2 Ni(dpg)_2薄膜を回転式高圧装置のサファイアアンビルで加圧すると、薄膜の中心部は橙色を示し、外周部は緑色、最外周部には黄色の細い環状部が現れた。続いて、回転によるずれ応力を作用させると、中心部は橙色を保っていたが、外周部では緑色の環状部が太く明瞭になった。Ni(dpg)_2は、静水圧によって常圧の赤橙が緑色に変化するので、ずれ応力は外周部に強く作用することが分かった。ずれ応力下でラマンスペクトル(励起光785nm)を測定すると、C=NのバンドA:1443cm^<-1>、B:1463cm^<-1>がずれ応力に応じて高波数へ移動した。これらのバンドは静水圧下においても高波数へ移動し、その割合はA:3.43cm^<-1>/GPaとB:4.08cm^<-1>/GPaであり、強度の強いBを使ってずれ応力を見積もった。加圧時から3°の回転を加えた場合、中心部の応力の値はほぼ一定であったが、外周部ではずれ応力によって1.37GPaから1.58GPaに増加していることが明らかになった。 2.スピロピラン6-nitroBIPS フォトクロミズムを示すスピロピラン6-nitroBIPSに対するずれ応力効果を調べた。淡黄色の蒸着膜にずれ応力を作用させると、キュレット面の中心部では顕著な色の変化は見られないが、外周部には緑色の環状部が現れた。さらに応力を抜くと、緑色は紫色に変化した。緑色部のラマンスペクトルは強い蛍光のためにスペクトルが得られなかったが、常圧の淡黄色と紫の部分には蛍光はなく、得られた両者のスペクトルは形状がよく似ていた。この結果は、ずれ応力下の緑色の6-nitroBIPS分子は、常圧とは異なる状態にあることを示唆している。
|