研究概要 |
分子結晶の物性研究と物質合成にずれ応力効果を導入することを目標とし、実験手法の開発とその効果の検証を行った。実験には回転式サファイアアンビル高圧セルを用い、薄膜にアンビルでの加圧と下アンビルの回転を加え、キュレット面に作用するずれ応力を観察した。 1.ずれ応力による電荷移動錯体TMPD-TCNQの合成 NNN'N'-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン(TMPD、無色)とTCNQ(榿色)の薄膜を上下アンビルにそれぞれ作成した。この両者を強く押しつけると、外周部に青色が細く環状に現れ、続く3.6度の回転によってその幅が広がり、濃青色になった。この濃青色は応力を除いた後も残り、電荷移動錯体が生成していることをラマンスペクトルから確認した。 2.白金ジフェニルグリオキシマート錯体[Pt(dpg)_2]に対するずれ応力効果 Pt(dpg)_2は、常圧の赤から高圧下では緑、黄色に変化する。この薄膜に高圧セルで圧力を作用させると、中心部は緑赤色に変化し、最外周部には黄緑色の細い環状部が現れた。続いて、10度の回転を加えると、外周の環状部は幅広く黄色に変化した。ラマンスペクトルのC=Nバンド1431cm^<-1>と1452cm^<-1>は応力によって高波数へ移動し、シフト量と圧力の関係から応力を定量化した。回転によって、中心部は0.14GPaから0.18GPa、外周部は1.77GPaから2.41GPaに増加し、外周部に強いずれ応力が作用していることを定量的に確かめた。ニッケル錯体Ni (dpg)_2についても同様に定量化し、ずれ応力の作用を確かめた。 3.スピロピラン6-nitroBIPSに対するずれ応力効果 フォトクロミズムを示すスピロピラン6-nitroBIPSの薄膜(淡黄色)にずれ応力を作用させると、外周部に緑色の環状部が現れた。この緑色は、応力を抜くと紫色に変化した。緑色部のラマンスペクトルには強い蛍光が観測されたが、常圧の淡黄色と紫の部分には蛍光はなく、また両者の形状が似ていた。ずれ応力下の緑色の6-nitroBIPS分子は、常圧とは異なる状態にあることが示唆された。現在、他のスピロピランに対する実験を進めている。
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