研究概要 |
今年度はまず今後の研究の準備として,圧力下での磁気測定のためのハードウェアの整備を進めた.SQUID磁束計で使用可能な小型クランプ式圧力セルの部品を購入して組み立て,金属錯体伝導体[Pd(dmit)2]塩の磁気測定に着手している.常圧で観測された,この物質の二次元三角格子に特徴的な磁化率温度依存性が,加圧による金属化に伴ってどう変化するかを明らかにするのが最終目標である.これとは別に注目する現象として,電気抵抗には明瞭に現れる圧力下の超伝導が,高周波交流磁化率では微弱な信号しか与えないことについて,静磁化率測定および磁化-磁場曲線を測定して,超伝導の性格をはっきりさせる実験にまず着手し,進行中である.次に,3GPa以上の高圧力での磁気測定をおこなうための小型ダイアモンドアンビルセルの部品も購入し,本研究課題目的に適用するための試験をおこないつつある.また,一定荷重型加圧装置の低温部荷重伝達系を設計・改造して,低温部のクリアランスを拡大するとともに,寒剤消費と温度昇降時間を抑え,多目的の物性測定に使用可能にし,耐荷重安全試験をおこなった.一方,[Pd(dmit)2]塩の一部で発見された新しい型の相転移について,磁気測定によって低温相が非磁性であることを見いだした.理論的考察から,この相転移の機構が二量体内のHOMO-LUMO二重結合形成による電荷分離現象であることを結論した.電気抵抗で見た相転移の性格は圧力によって変化する.今回明らかになった機構は,転移に対する圧力の役割を理解する基礎となる.さらに,[Pd(dmit)2]塩に広く見られる磁気的フラストレーションが,正三角格子構造からはずれることによって温度クロスオーバーを経て解消され,磁気秩序に結びついていることを,現象論に基づく磁性データの解析で明らかにし,国際会議ISCOM2003で発表した.
|