光に応答する脂質二分子膜は光電子デバイスや光増幅器を組み込んだ人工的な視覚システムとして非常に興味がもたれている。光に応答する二分子膜としては、従来、両親媒性のアゾベンゼンやスピロベンゾピランなどの光応答性化合物を含む脂質二分子膜がよく研究されてきた。このような膜の光応答性は、おもにドープされたクロモフォアーの光異性化による膜コンダクタンスの変化(膜構造の乱れ)に基づいている。一方、膜を介したイオン輸送の光制御に関する研究は、クロモフォアーを修飾したチャネルやキャリアーをドープした人工膜でおこなわれてきたが、そのほとんどは紫外光を用いたものである。紫外光の長時間照射は、光応答性膜を構成する脂質分子あるいはクロモフォアーにダメージ(光分解)をもたらす欠点がある。 本研究課題では、400nmより長い可視光に応答する人工キャリアーにより、脂質二分子膜を介したナトリウムイオン輸送の光制御に成功した。光応答性のキャリアー分子として、カリックス[4]アレーン分子にジメチルアミノアゾベンゼン誘導体を結合させたものを用いた。ジメチルアミノアゾベンゼンは、一般的なアゾベンゼンと異なり、400nm以上の可視部の光によってシスートランス互変異性を起すクロモフォアーであり、これを利用する事により可視光に応答するキャリアーの合成に成功した。本研究は、人工二分子膜系で可視光のみを利用してイオン輸送の制御をおこなったはじめての例であり、その成果は人工的な光応答性膜(視覚システム)の研究に重要な知見をあたえるもの考えられる。
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