加水分解酵素であるウレアーゼの活性中心に存在する2つのニッケルイオンを銅イオンに置換することにより、酸化活性を発現することを発見した。基質としてグアイヤコールを用いた場合、過酸化水素存在下において、グアイヤコールオキソドの生成を確認した。アポタンパク質、ニッケルイオンを含む他の2価遷移金属イオンで置換したタンパク質では、銅置換ウレアーゼに見られるような酸化活性は観測されない。さらに、銅複核酸化酵素であるカテコールオキシダーゼ、チロシナーゼと酵素活性と同様の酸化活性を銅置換ウレアーゼは有していることを明らかにした。基質としてジフェノールを用いたとき、酸素存在下において、フェノキシラジカルの生成が観測された。これは、分子状酸素による酸化反応を銅置換ウレアーゼは触媒することを意味している。また、フェノールを基質とした場合においても、ジフェノールを経由して、フェノキシラジカルの生成が確認されたことから、フェノールに対して、銅置換ウレアーゼは一原子酸素添加酵素となっていることも見出した。これらのことは、ウレアーゼの活性中心のニッケルを銅に置換することによって、加水分解機能から酸化機能へ、酵素の機能変換に成功したことを意味している。本年度は、さらに、ウレアーゼの活性部位周辺アミノ酸を部位特異的置換を行うことにより、チロシナーゼの活性部位と類似させることを試み、その結果、架橋アミノ酸残基の有無、および、配位アミノ酸残基の改変によって、酸化機能の向上が明らかになった。この結果は、複核金属酵素の機能制御における活性部位構造因子の解明に対して、有用な知見を導くものである。次年度は、さらに、本年度の研究を発展させて、他の複核金属酸化酵素であるカタラーゼやメタンモノオキシダーゼとの比較を行い、複核金属酵素の活性部位構造に関する統一的見識を得ることを目指す予定である。
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