研究概要 |
RNAワールド仮説は生命の起源に関する仮説として重要であるが,生命の熱水起源の視点から見ると難点がある.RNAは高温水中では加水分解しやすく,また生体機能を発現する上で不可欠な水素結合や疎水性相互作用が弱まるので,高温水中ではRNAワールドが自発的に出現したとは考えにくい.しかしこのことを検証した研究はなかった.その理由の一つはこれを検証するための良い反応モデルがなかったことにある.本研究ではオリゴヌクレオチドの非酵素的な生成反応として以下の3種類の反応系について,高温水中で起こり得る原始ポリメラーゼモデルとしての可能性を検討した. 1.グアノシン5'-モノリン酸のリン酸基をイミダゾールで活性化したヌクレオチドは,鋳型としてポリシチジル酸の存在下で重合する.この反応に対して,種々のアミノ酸とアミノ酸が熱重合したタンパク質状物質が,高温下で促進効果を持つかどうか調べた.その結果,ヒスチジン以外のアミノ酸あるいはヒスチジンを構成要素として含まないタンパク質状物質は,この反応に対してほとんど影響を与えないことが分かった. 2.6〜12鎖長でグアニンとシトシンを主に含む,5'末端にリン酸基をもち3'末端がリボースであるオリゴヌクレオチドは,水溶性カルボジイミドの存在下で,縮合して環状のオリゴヌクレオチドを生成する.この反応はリン酸ジエステル結合の生成反応と見なすことができるので,その生成速度定数を0〜75℃の範囲で決定した.この生成速度は,リボースリン酸ジエステル結合の加水分解速度よりも50倍以上大きく,100℃を越える熱水中で核酸は生成し得ることが強く推定された. 3.14鎖長のシトシンおよびグアニンを含みヘアピン構造をとり得る塩基配列を持っオリゴヌクレオチドを,水溶性カルボジイミドの存在下で反応させた.この生成物を分析したところ,伸長反応が起こったことが確認された.
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