研究概要 |
生長に必要な鉄の細胞内への取り込みは,一般的な細菌から病原性細菌に於いて幅広く見られる現象である。従って,新規な細胞観察用蛍光プローブを開発することは,鉄取り込み機構の解明のみならず病原性細菌の研究を通した医薬品の創製に於いて必要不可欠である。本研究では、新規な蛍光性2座および三脚型6座配位子を合成し,鉄錯体形成による消光と配位子解離による蛍光の回復,すなわち蛍光のON-OFFを利用し,菌体を用いた鉄取り込みの蛍光顕微鏡を用いた直接観察を試み,新規蛍光性配位子が細胞観察用の新しい蛍光プローブに成り得るかを評価することを目的とした。 平成15年度は,蛍光性2座配位子の合成と蛍光特性の評価を中心に研究を進めた。その結果,以下のような成果が得られた。1.2,3-ジクロロ-6-ニトロキノキサリン(a)から2段階の反応を経て,6-アミノ-2,3-ジモルホリノキノキサリン(b)を合成した。2.キノキサリン(b)と3-ベンジルオキシ-2-メチル-4-ピロンから2段階の反応を経て,3-ヒドロキシ-4(1H)-ピリジノンが直結した蛍光性2座配位子(c)を合成した。3.キノキサリン(b)と2,3-ジヒドロキシベンズアルデヒドから2段階の反応を経て,カテコールが結合した蛍光性2座配位子(d)を合成した。4.2座配位子(c)は,Fe(III)と3:1錯体を形成すること,及びFe(III)の添加とともに著しい静的消光が起ることがわかった。5.2座配位子(c)-Fe(III)錯体の溶液に強力な鉄キレーターであるDFBやEDTAを加えると蛍光の回復が見られ,蛍光のON-OFFが可能であることがわかった。 これまでの研究成果の一部は有機合成化学協会誌に論文として発表し,一部は日本化学会第84春季年会でポスター発表する。
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