アミノ酸やペプチド類のレセプターとして機能する光学活性な水溶性ポルフィリン亜鉛錯体をデザインし、ラセミ体として合成した。この錯体をHPLCキラルカラムによってエナンチオマーへと分割した。塩基性水溶液中で、各エナンチオマーとキラルなアミノ酸、ジペプチド、トリペプチド類との会合定数Kを可視吸収スペクトル変化によって求めた。 このポルフィリン錯体は、C_2対称性をもち、中心亜鉛イオン近傍に四級アンモニウム基および疎水性側鎖としてフェニル基またはt-ブチル基をもつ。これらの錯体はいずれも、二種のエナンチオマーでキラルなアミノ酸およびジペプチド(いずれもこの条件下ではアニオン)に対し、Kが最大3〜5倍異なることを示し、明らかなキラル認識能をもつことが実証された。種々の測定結果から、これらのキラル認識能の発現は、(1)アミノ基と亜鉛イオンの配位結合、(2)カルボキシラト基とポルフィリンアンモニウム基とのクーロン力、(3)アミノ酸側鎖とポルフィリンのフェニルまたはt-ブチル基との間の立体障害、の三種の相互作用がいずれも有効に協同的に作用した結果であると結論づけられた。次に、アミノ酸およびジペプチドとの会合についての熱力学的データを算出し、この会合に対するΔH-ΔS補償効果について検討した。ここで得られた結果は、ポルフィリン錯体の有機溶媒中でのアミン類との会合とは大きく異なり、むしろ、水溶液中でのシクロデキストリンやクラウンエーテルのゲストとの会合に近く、本研究での会合には水和-脱水和が大きく関与していることが示唆された。一方、キラル認識に関しての補償効果では、エントロピーの寄与がきわめて小さく、水和-脱水和がこの認識にはほとんど関与していないことが示唆された。
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