研究概要 |
本研究の目的は,(1)界面活性剤分子を吸着して分散安定化しているコロイド粒子の凝集過程を定量的に評価すること.(2)エマルションなどの柔らかなコロイド系の分散安定性を支配する諸因子を解明すること.(3)界面活性剤水溶液中でのポリスチレン(PS)粒子の分散安定性を解明することを目指し,固体基板上に作成したPS薄膜に吸着する界面活性剤の働きを調べることである. (1)の研究を進めるには広い時間域に亘るコロイド凝集速度を調べることが必要であり,本年度はこの測定をするためのストップトフロー分光光度計の設置と調整を行った.現在,PS粒子と種々の分散媒とを高速混合した後の濁度の時間変化測定に着手したところである.また,高効率吸着材として期待されている粘土鉱物(モンモリロナイト)を研究対象に取りあげ,カチオン界面活性剤の吸着挙動と吸着に伴う分散性やゼータ電位の変化について調べた.更に,モンモリロナイト分散液の誘電緩和・音速・ゼータ電位の測定により粘土粒子表面の水和状態に及ぼす対イオンの種類の効果を調べ,論文発表した. (2)については,種々のタンパク質の乳化作用の解明に焦点を当てることとし,本年度は気液界面へのタンパク質の吸着ダイナミクスを,最大泡圧法により得られる動的表面張力データから解釈することを試みた. (3)に関しては,溶液中でのスピンコートPS薄膜の挙動を分光エリプソメトリーで調べた.純水中に浸されたPS膜は0.5nmの膜厚増加を示し,表面近傍に適用した有効媒質近似計算からは水の体積分率は22%となり,多くの割合で水が入っている結果となった.一方,界面活性剤水溶液中では一分子層程度量の吸着が検出されたが,高分子の剥離によると思われる膜厚減少が観察される場合もあった.以上より,溶液中でのスピンコートPS膜は不安定で,界面活性分子により構造変化する場合があることが明らかとなった.
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