研究概要 |
本研究は、配向・結晶に多様性のあるシンジオタクチックポリスチレン(SPS)の結晶やゲル状態のSPS鎖について光プローブ法でアプローチし,そのミクロ環境を明らかにし,さらに,延伸やゲル状態からの溶媒蒸発などを利用して,有害有機分子を除去させるために有効なδ結晶フィルムを作製する方法を確定するのが目的である.本年度は以下の3つのプロジェクトを平行して進め,各々で成果を上げつつある. (1)SPSの有機溶媒ゲルについては,イソタクチックポリスチレンゲルで成功した蛍光法を適用した.SPS濃度を変化させて,分子サイズの異なるナフタレンやメチルナフタレンなどの誘導体をゲルに一定量加えて,偏光解消測定からこれらの分子が動けるような自由体積があるかどうかを検証していく方法である.その結果,SPS鎖間に1,5-ジメチルナフタレンサイズ程度の自由空間が存在することが判明し,ポリマー・溶媒分子化合物の存在を明確にした.さらに,狭義の物理ゲルの定義から外れるtrans-デカリン溶液の場合,ゲル状にはなるが,ナフタレンでさえ,SPS鎖間には挿入できる自由体積がなく,結果的に,溶媒分子の分子サイズ自体がゲル化の有無に大きく関係していることが確認された. (2)SPS固体は4種類の結晶形が知られているが,イタリア・サレルノ大のGuerra教授グループと共同して,完全非晶・α型・δ型およびこれらの延伸フィルムにナフタレンをドープしたサンプルの構造解析と蛍光偏光解消法による自由体積情報を組み合わせてδ結晶フィルムの包接挙動を明らかにしつつある. (3)SPSのクロロホルムゲルを長時間蛍光測定していると照射光ビームの形に刻印されるという不思議な光物性が観察されたので,光照射装置を購入し,照射条件・SPS濃度・溶媒などを変化させて形態変化の調査を開始し,SPSのフェニル基の光吸収が原因であることを明らかにしつつある.
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