研究概要 |
本研究は、水面上に展開されたTTF系誘導体とカルボキシル基(またはスルホン酸基)の分子混合系が、自己組織的な化学反応によりTTF系分子の部分電荷移動状態が形成されることで高い電気伝導特性を看する薄膜を与える点に注目し、この手法の最適化を行うことで分子エレクトロニクス分野における基盤技術の提供をめざしている。今年度中は昨年度に引き続き、(1)新たな分子系の探索、および(2)自己組織化膜への適用、について研究を行った。 (1)新たな分子系の探索 今回、今久保らにより新規に合成されたセレン原子を内側5員環に含む酸素置換型TTF誘導体(BEDO-TSeF)を取り上げ、スデアリン酸との混合分子系について研究を行った。赤外吸収スペクトルで明瞭な部分電荷移動吸収帯が観測されることから、この系についてもこれまでと同様の自己組織的な化学反応が進行することが明らかになった。また直流電気伝導度の温度依存性の測定では、室温以下で金属的な振る舞いを示すことが見いだされた。しかしながら、室温における電気伝導度は7S/cm程度と比較的低い値にとどまった。この小さな電気伝導度の原因として、積層構造の乱れの影響が大きいことが、X線回折プロファイルの測定より示唆された。これらの結果は第52回応用物理関係関連連合講演会で報告され、さらに第11回Thin organic Films国際会議(札幌、6月27日-6月30日)において発表を行う予定である。 (2)自己組織化膜への適用 D.Viullaume (IEMN-CNRS, France)博士との共同研究により、カルボキシル基終端されたSAMとBEDO-TTFとの間での化学反応による導電性薄膜の作成に関する研究を行った。クロロホルム溶液中で反応させた試料において、部分電荷移動状態の形成に伴う赤外反射吸収スペクトルの変化が確認された。しかしながら、原子問力顕微鏡による表面プロファイルの観察からは、BEIDO-TTF分子は約100nmの高さを持つ島状構造を形成しており、当初予想されていた層状成長には至っていないことが明らかになった。今後、溶媒や時間など反応条件を最適化することで層状成長が実現できるか、さらに研究を進める予定である。なお、以上の結果は、Europian Conference of Organic Films 2004で発表され、学術雑誌Applied Surface Scienceに掲載される予定である。
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