本研究では、ゲート付きICCDカメラとこれを制御するパルスジェネレータ及びPCによる画像解析ソフトを使用して、PbWO_4結晶の時間分解発光測定を行い、発光スペクトルのピークが時間とともにシフトする様子を観測することを目的とした。 励起光源としてNd:YAGレーザーの4倍波(266nm)を使用した。ICCDカメラに送る信号の遅延時間を変えることによって、時間分解発光測定が可能となる。測定サンプルには不純物をドープしていないPbWO_4結晶とMoイオン(1350at.PPm)をドープしたPbWO_4結晶とを使用し、発光特性に及ぼす不純物ドープの影響も調べた。 不純物をドープしていないPbWO_4結晶の場合、低温(77K)では発光スペクトルのピークが短波長側から長波長側にシフトしていく様子は確認できなかったが、温度を上げていくと発光スペクトルのピークが長波長側にシフトすることが確認できた。一方、MoをドープしたPbWO_4結晶の場合には、低温(77K)では遅延時間50μs付近から発光スペクトルのピークが長波長側へ徐々にシフトしていく様子が観測された。また、室温(300K)では遅延時間80nsと早い時間から発光スペクトルの長波長側へのシフトがわかった。 今回の実験途上において、いずれの結晶においてもある遅延時間領域において、固有発光(青色発光)のピークよりも短波長側に発光帯が現れた。この短波長発光は、試料温度が高温(170K以上)になるほどはっきりと観測された。この新たに見出された発光はJahn-Teller効果を取り入れた配位座標モデルを使って理解できることが分かった。 本研究から、不純物をドープしていないPbWO_4結晶とMoイオンをドープしたPbWO_4結晶とでは、遅い寿命をもつ緑色発光のピーク位置が明らかに異なっていることが確認された。これは、従来のモデル(両者を同一視するもの)とは明らかに食い違っており、シンチレータ材としてのPbWO_4結晶の発光強度増大への不純物ドープの影響を再検討する必要があることを示唆する重要な結果であるといえる。
|