本研究では、低温8Kから室温300Kまでの広い温度範囲で、各種の不純物を添加したタングステン酸鉛(PbWO_4)結晶の時間分解発光スペクトルを高速電子シャッター内臓のICCDカメラを用いて測定し、青色固有発光と緑色外因発光を時間的かつスペクトル的に分離して観測する。そのことにより、青色発光成分に邪魔されることなく、緑色発光の出現と減衰の様子(ダイナミックス)を調べることが可能になり、添加する不純物と緑色発光との因果関係を明確にすることを目的としている。 初年度は、購入した高速電子シャッタ内臓ICCDカメラを組み込んだ発光測定用の光学系を構築した。励起光としてNd:YAGレーザーを使用した。Nd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm)の光を2倍波結晶(SGH)に通し、更にそれを4倍波結晶(FGH)に通すことにより、波長266nmのレーザパルス光を得た。プリズムで2倍波を分離した後、4倍波光を誘電体ミラーで反射させて試料に照射した。試料からの発光は、レンズ(f=50mm)で集光して分光器(Jobin Ybon)に入れる。この時、分光器の前にレーザーの散乱光をカットするためのフィルタ(UV-37、UV-29)を挿入する。分光器で分光された光をICCDカメラで取り込み、PCで輝度解析を行った。 次年度は、広い温度範囲で不純物としてMoを含まない結晶と含む結晶を対象に時間分解発光測定を実施した。その実験結果から以下のことが分かった。 (1)PbWO_4の青色固有発光の起因となっている自己束縛励起子状態は、Jahn-Teller効果により縮退が解け、3準位に分裂していることが初めて見出された。 (2)Moをドープしていない場合に比べてドープした場合の方が発光帯の低エネルギーシフトが大きく、定常励起下では同じように見えながらも、両者における緑色発光の起因が全く異なっていることがわかった。 (3)Moをドープした場合の緑色発光の寿命が非常に長いことが確認された。
|