イオンビームスパッタリング法ではイオン銃のイオンビーム出力の時間安定性が膜厚制御性を左右する。本研究で作製する波長13.5nm用Mo/Si多層膜凹面鏡では、反射ピーク波長の許容誤差が2%であるのに対し、現有設備のイオンビームスパッタリング装置では、これまで成膜速度の変動のために反射ピーク波長に10%程度の誤差があった。したがってイオン銃の動作安定化を図り、成膜速度の再現性を2%以内の変動に抑えることが最優先課題であった。イオン銃の動作に関与する主要なパラメーターはアルゴン流量、加速電圧、引出し電極電圧である。これらのパラメーターをそれぞれ大きく振ってそれらに対するイオンビーム出力の依存性を詳細に調べ、イオンビーム出力最大の条件がそれぞれ1.4sccm、-1.4kV、+300Vであることがわかった。その条件からアルゴン流量を変化させて時間安定性の変化を調べた結果、アルゴン流量を増加させるとイオンビーム出力は減少するが時間安定性が増す傾向があることがわかり、最適値は1.7sccm-2.0sccmであると結論した。さらに、引出し電極とビームシャッターに設けた電極でそれぞれイオン流総量、およびイオン流密度をモニタリングして、室温とイオン流、および実験室の配電盤電圧とイオン流との間に強い相関を見出し、将来的に安定性を大きく改善できる見込みができた。 一方、独自に開発して利用している膜厚分布制御用速度可変シャッターについて、成膜所要時間を最短化する速度関数の計算方法を導出するとともに、シャッター形状を再検討して制御可能領域を拡張した。曲率半径50mm、270mm、300mmのMo/Si多層膜凹面鏡を作製し、高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設で軟X線直入射分光反射率測定により周期長分布を評価した。
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