今年度の主な成果は以下の3点である。 1.BF STEMの高分解能像の形成機構の解明 設定条件の最適化と均一で酸化膜の少ない試料の作成に成功し、Si(011)の高分解能低角度明視野走査電子顕微鏡(LABF STEM)像と高分解能高角度明視野走査電子顕微鏡(HABF STEM)像を撮ることができHAADF STEM像との比較から像の形成機構は収束した弾性散乱波の吸収によることを解明した。その結果高分解能HABF STEMの原子像のコントラストはHAADF STEMの逆であることも分かった。また、HABF STEMでもHAADF STEMと同等の分解能を得ることも明らかにした。これらの結果の大部分は論文としてまとめActa Cryst. A60(2004)591-597.に掲載されている。 2.対称性を使ったBF STEMとHAADF STEM像計算の高速化 BF STEMとHAADF STEMの高分解能像の計算には膨大な計算時間と多量のメモリーが要求される。そこで並進対称性と点対称を使うことによって計算時間とメモリーが飛躍的に軽減できることを明らかにした。また、実験像との比較から精度は対称性を使わない計算と全く同じであることも確認できた。この方法は欠陥の計算を超格子を使って行う場合にも簡単に応用できるため、世界的に注目を集め結果の一部は掲載された論文集の表紙に選ばれている。この結果の大部分は論文としてまとめUltramicroscopy102(2004)13-21.に掲載されている。 3.HAADF STEMを使ったSiO_2/Si界面の原子構造 SiO_2/Si界面の原子構造やラフネスの測定は高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)を初め多くの方法によって勢力的に研究がなされているがまだ未解決な問題が多い。高分解能HAADF STEM像とその動力学計算による精密な比較から界面近傍には結晶性のSiO_2は存在しないことを明らかにした。その結果、酸化過程で結晶性SiO_2は重要な役割を果たしていないことも明らかにできた。これらの成果の大部分は論文としてまとめはPhys.Rev.B70(2004)165324に掲載されている。
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