研究概要 |
半導体量子井戸構造を含むマイクロストリップ線路の作製・測定および有限差分時間領域(FDTD)法による3次元電磁界解析等を進めた結果,以下のような成果が得られた.(1)基板厚さ350μmの金属マイクロストリップ線路構造において,本研究着手時に得ていたサブピコ秒電界信号が,通常の2導体系線路としてではなく,基板表面側の単線のみによって導波されていることを見いだした.このような単一導体線路における電磁波の導波はマイクロ波領域で近年確認されていたものであるが,THz領域でも同様の伝搬が起こることを示したことになる.テラヘルツ領域では導電率の実部と虚部が同程度の値をもつことから,電磁波導波における表面プラズモンの影響を明らかにする格好の舞台となりえる.(2)前記の単線導波の性質についてFDTD法による詳細な解析を行った.導体を一様な誘電率の絶縁体で覆った場合にはマイクロストリップ線路よりも少ない減衰および分散が得られることなどが明らかになった.今後,応用展開が期待できる.(3)本研究着手時には電界パルス信号は50μm程度しか伝搬できていなかったが,500μmまでの伝搬を確認した.(4)マイクロストリップ線路における導体間に光を入射するために必要となる透明導電膜ITOの成膜条件出しを進め,導電率2.5×10^3/Ωcmの値が得られた.FDTD計算による予測では,この導電率でも数100μm程度の伝搬は可能であるが,さらに1×10^4/Ωcmまで向上すれば,伝搬距離を1mm程度にのばすことができる.(5)光導電スイッチによるサブピコ秒電気信号発生において,光励起キャリアの速度オーバーシュート効果を含めた数値解析により,発生信号の予測を行った.伝送線路インピーダンスや励起キャリア密度によっては,波形が大きく変わること場合があることなどが明らかになった.
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