研究概要 |
本研究では半導体量子井戸構造を含むマイクロストリップ線路を作製し,量子井戸層に光励起等によって電子・正孔を生成することで,サブピコ秒電気信号の伝播速度を変化させることを目的とした.研究においては素子作製・測定と同時に有限差分時間領域(FDTD)法による3次元電磁界解析等を平行して行い,以下のような成果が得られた. (1)本研究着手時に得ていた電気信号が,基板表面側の単線のみによって導波されていることを見いだした.単線導波はマイクロ波および光波領域で観測されている.テラヘルツ領域では導電率の実部と虚部が同程度の値をもつことから,電磁波導波における表面プラズモンの影響を明らかにする格好の舞台となりえる.また,導体を一様な誘電率の絶縁体で覆った場合にはマイクロストリップ線路よりも少ない減衰および分散が得られることなどが明らかになった.今後,応用展開が期待できる. (2)線路導体間に光を入射可能な透明導電膜ITOを裏面導体とするマイクロストリップ線路を作製し,1THzのスペクトル範囲であれば伝搬距離を1mm程度としても,十分に良好な伝送特性が得られることを実証した.またFDTD解析により1THzを超える周波数では,電気伝導をドルーデモデルで取り扱う必要があることが明らかになった. (3)有機ポリマー(ポリイミド)を絶縁層とする薄膜マイクロストリップ線路において数mm程度のサブピコ秒電気信号伝送が可能であることを実証した. (4)上記マイクロストリップ線路に半導体量子井戸層を埋め込むプロセス手法を確立した.光励起による伝播制御実験においては,励起光強度不足により,伝播速度制御の観測にはいたらなかったが,上記の素子作製プロセス手法はかなりの汎用性があり,今後の機能化マイクロストリップ線路実現へ向けた展開が期待できる.
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