研究概要 |
平成15年度はエージェント・ベースド・モデルの熱力学的極限としてマスター方程式を表現して,元のエージェント・ベースド・モデルとマスター方程式の統計力学的関係を明らかにした.平成16年度は周期的境界条件の下で,マスター方程式とフォッカー-プランク方程式の解の関係を,2次の有限クラマース-モイヤル展開を用いて高階の剰余項を評価することにより,明らかにした.平成17年度は平成16年度までのこれらの研究結果とマスター方程式の基本定理を組み合わせて,混合問題の解の正則性の評価と漸近評価を行った.そしてその結果を用いて3次の有限クラマース-モイヤル展開を導いた.この展開結果を利用してエージェント・ベースド・モデルから導出されるマスター方程式によって記述される地理的な人口移動現象とフォッカー-プランク方程式によって記述される生物粒子の拡散輸送現象の比較を行った.平成15年度と平成16年度の研究では,周期的境界条件が置かれていた.しかし平成17年度の研究ではそのような仮定を置かない一般的な境界条件のもと,十分に滑らかな境界を持つ一般的な連結領域でマスター方程式の解とフォッカー-プランク方程式の解の幾何学的相似性を証明した.証明では3次の有限クラマース-モイヤル展開を用いる.この展開によって剰余項の評価をより精密にすることができた.証明した幾何学的相似性は「生物学的粒子の拡散と人口移動の違いは単にそれらの間の空間的スケールの違いである」ことを示している.
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