研究概要 |
高強度鋼やTi合金などの高強度材料の疲労では,10^7〜10^8cycleを越える超高サイクル域で材料内部を起点として破壊することが知られている.申請者はこれまでの研究により,上記現象の理由を真空に類似した材料内部環境によって説明できる可能性を示した.本研究では,この考えの妥当性を検証するために,(1)微小欠陥からのき裂伝播特性および停留特性を異なる真空圧力下で系統的に調べ,ΔK_<th>の寸法依存性に及ぼす真空圧力の影響を明らかにすること,(2)異なる真空圧力下における微小欠陥近傍の初期伝播破面と,内部き裂のそれを比較することにより,き裂伝播過程に及ぼす材料内部環境の影響を明確にすること,を到達目標とした.このために,本年度は高真空中における微小欠陥材の予備疲労試験,破面解析,試験装置の設計製作,を行った.以下にその概要を示す. (I)高真空中における微小欠陥材の予備疲労試験 現有の真空疲労試験機を用いて,一種類の真空圧力(2×10^<-5>Pa)において,微小欠陥を加工した高強度鋼およびTi64合金の疲労試験を行った.その結果,両素材ともに欠陥が小さくなるほど疲労限度が低下する,いわゆるΔK_<th>の欠陥寸法依存性が真空中でも生じることが示された.また,この依存性は大気中より大きくなることを明らかにした.これらのデータに基づき次年度の疲労試験の計画を作成した. (II)破面観察に基づく微小欠陥周囲の初期き裂伝播解析 (I)で得られた微小欠陥周囲の破面を解析し,真空中と大気中の相違点を整理した.その結果,高強度鋼,Ti合金ともに初期き裂の伝播過程において,組織単位寸法より微小な凹凸を示す領域が観察された.この破面は低応力長寿命域において内部き裂の周囲に認められる破面と極めて類似していた.さらに,この破面は大気中の表面欠陥周囲には観察されなかった.以上から,内部き裂先端の環境と真空環境の類似性は材料を問わず成立する可能性が示された. (III)試験装置設計製作 任意の真空圧力で試験を行うために,新たな真空疲労試験機を設計した.この試験機には真空中でのき裂先端の挙動をCCDで高倍率観察を可能とする工夫も施し,次年度での疲労き裂伝播挙動の定量的評価に備えた.
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