衝撃吸収性に優れることから人工股関節の臼蓋に使用される超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の人工骨頭との摩擦による摩耗量に直接関係する、臼蓋内面近傍の動的接触応力を正確に解明するために骨頭と臼蓋内面の間のクリアランスを考慮したFEM解析を行った。ここでは骨頭はアルミナ製、臼蓋はUHMWPEとし、UHMWPE製の臼蓋をPMMA骨セメントで生体骨に固定するモデル1と生体活性性を有する傾斜機能材料層(UHMWPE/AW-glassからなる線形傾斜したFGMとAW-glass/Boneからなる線形傾斜したFGM)で生体骨に固定するモデル2を採用した。また、モデル2については、傾斜層の材料組成分布の臼蓋内面近傍の動的接触応力への影響を明らかにするために、FGMがいずれもAW-glass richに傾斜した傾斜機能材料層で固定されたモデル2 rich-richの場合についても解析した。解析結果から、モデル1では、最大相当応力が、UHMWPE臼蓋内に発生し、その値はUHMWPEの降伏応力を超えることがわかった。また、モデル2においては、最大相当応力は傾斜層に発生するが、UHMWPE臼蓋内に発生する相当応力の最大値をUHMWPEの降伏応力以下に抑えることはできなかった。ただし、ここで使用したUHMWPEはγ線照射などによって降伏応力の改善が施されていないが、これを行ったUHMWPEの降伏応力以下に抑えることは可能であることがわかった。この結果は傾斜機能材料論文集(2003)に掲載された。 次に、上記の結果からUHMWPE臼蓋に塑性変形が発生していることを考慮して、UHMWPE臼蓋を弾塑性体、PMMAまたはFGMからなる接合層と生体骨を弾性体としたFEMによる静的応力解析を行った。このUHMWPE部の弾塑性応力解析の結果から、モデル2の傾斜機能層の材料組成分布のみによってUHMWPEに発生する塑性ひずみを大きく緩和することはできなかったが、全体の臼蓋の大きさは変えることなく、傾斜機能層の厚さを厚くすることにより塑性ひずみの発生を抑えうる大きな応力緩和が可能であることがわかった。この結果は2003年9月の日本機械学会材料力学部門講演会において講演した。
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