衝撃吸収性に優れ、比較的耐摩耗性を有する超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)が人工股関節の臼蓋に使用されるが、人工骨頭との摩擦による摩耗量が人工股関節の寿命に直接関係するため、摩耗の原因となる動的接触応力の緩和と正確な把握が求められている。本研究では、臼蓋内面近傍の動的接触応力を正確に解明するために骨頭と臼蓋内面の間のクリアランスを考慮した弾塑性応力のFEM解析を行った。解析モデルとして、骨頭はアルミナ製とし、UHMWPE製の臼蓋をPMMA骨セメントで生体骨に固定するモデル1、PMMA骨セメントと生体骨の間にHApを介在させたモデル2と、生体活性性を有する傾斜機能材料層(UHMWPE/AW-glassからなる傾斜したFGMと、AW-glass/Boneからなる傾斜したFGM)で生体骨に固定するモデル3を採用した。また、モデル3については、傾斜層の材料組成分布の臼蓋内面近傍の動的接触応力への影響を明らかにするために、FGMがいずれもAW-glass richに傾斜した傾斜機能材料層で固定されたモデル3の場合についても解析した。解析結果から、モデル3 rich-richの場合が、UHMWPE臼蓋の動的接触応力の緩和効果を示し、また生体活性性にも優れた人工臼蓋であることが判明した。なお、動的接触応力の最大相当応力は、骨頭と臼蓋内面の接触面ではなく、接触面から臼蓋内部へ1〜2mm入ったところに発生することがわかった。したがって、人工膝関節において村上(九大)らが指定しているように、UHMWPE摩耗粉はこの部分に塑性ひずみが蓄積し、蓄積した塑性ひずみが、この材料の変形能を越えたときにクラックが初生し、これが剥離することによってUHMWPE摩耗粉が発生するものと考えられる。UHMWPE臼蓋が摩耗し、臼蓋内半径と骨頭半径との間のクリアランスが増大すると、これが0.5mmを越えたとき動的接触応力の最大相当応力は大きくなり、臼蓋内に発生する塑性域も広くなるため、摩耗粉の発生量が増大することがわかった。なお、一般的に摩耗粉の発生量は平均0.1mm/yearと指摘されているが、クリアランスが0.5mmを越えた後、加速度的に増大することが明らかになった。
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