研究概要 |
生体硬組織の力学的性質を明らかにすることは,硬組織のバイオメカニクスにおける研究のなかで基礎的かつ重要なことであるが,組織の有する材料不均質性および力学的異方性等から,これを正確に求めることは難しく,これまでに種々の材料試験法が提案されてきた.硬さ試験から生体硬組織の力学的評価を行うことができれば,微小領域の組織に対して極めて容易に試験が行えるばかりでなく,組織の不均質性の詳細な検討が可能となる.しかしながら,硬さ試験から得られる「硬さ」の力学的意味が明確でないため,対象とする皮質骨の硬さと剛性あるいは強度との対応が既知である必要がある.そのため,これまでに皮質骨の硬さと力学的性質との関係についての検討が行われてきた.一方,超微小領域の生体硬組織については,その検討が十分に行われていない.このようなことから本研究では,ナノインデンテーション試験法を用いて,生体硬組織である骨や歯を対象に,その超微小領域の力学的特性評価(硬さ,弾性率等)を明らかにすることを主な目的として平成15年度から行ってきた. 皮質骨に関しては,ヒト皮質骨と同じ微細組織構造を有するラット大腿骨および脛骨皮質骨を対象にナノインデンテーションにより弾性率と硬さを求めるとともに,pQCTにより骨のBMDを正確に測定した.その結果,BMDと弾性率および硬さとの間には正の線形の相関関係が認められ,両者の間の相関式を与えた.また,その相関関係はヒト皮質骨とほぼ近い値であることを示した.一方,歯牙硬組織の横断面内におけるエナメル質から象牙質にわたる広範囲について,ナノインデンテーション試験により,硬さと弾性率の分布について検討を行い,歯牙表面のエナメル質から象牙質-エナメル質界面を亘り象牙質内部までの弾性率分布等を詳細に明らかにするとともに,硬組織の微細構造が力学的性質に与える影響について示した.
|