研究概要 |
高強度鋼の回転曲げ疲労試験の結果,表面き裂発生型破壊と内部き裂発生型破壊のそれぞれに起因するS-N曲線の存在が示唆され,これを二重S-N曲線と呼んでいる.内部き裂発生型疲労破壊は10^6回を越える長寿命域に生じ,き裂発生起点は非金属介在物である.本研究では,二重S-N曲線の存在を明らかにし、介在物を起点とする内部き裂発生型疲労き裂の発生と進展挙動を検討することを目的として、高炭素クロム軸受鋼JIS SURJ21,高速度工具鋼JIS SKH51,低合金鋼JIS SNCM439およびSCM435を用いて,室温・大気中で片持ち回転曲げ疲労試験を行った.得られた主な結論は以下の通りである. 1.いずれの供試材も長寿命域において,介在物を起点とする内部き裂発生型疲労破壊を生ずるが,その発生時期は焼戻し温度の影書を受け,焼戻し温度の高い供試材では10^9回までに内部き裂発生型破壊を生じない場合がある. 2.表面き裂発生型破壊から内部き裂発生型破壊への遷移は表面層の影響を受けて変化する.機械加工やショット・ピーニング処理による加工効果層および圧縮残留応力層の付与,並びに窒化処理によって,遷移は短寿命側に移行する.なお,内部き裂発生型疲労のS-N曲線は表面層の影響を受けず、一本のS-N曲線となり,き裂発生起点となる介在物位置での応力を用いて整理したS-N曲線はばらつきの少ないものとして整理できる. 3.介在物を起点とする内部き裂発生起点近傍には粒状で凹凸の激しい領域が認められ,SEM観察によって白く輝いた領域である.これをGBF(Granular Bright Facet)と命名した.この領域を三次元SEM並びに走査型プローブ顕微境(SPM)で詳細な観察を行い,また、トポグラフィ破面解析法(FRASTA法)によるコンピュータ・シミュレーションを行って,GBFの形成機構として「微細炭化物の離散剥離説」を提案した. 4.GBF領域は微細炭化物の剥離に対応した凹凸によって形成されるものであり,EPMA分析により高濃度の炭素が検出された.この炭素濃度分布は供試材の炭素含有量の違いに異存せず,本研究で用いた全ての供試材に認められ,「微細炭化物の離散剥離説」の有効性が確認された. 5.内部き裂発生型破壊の生成に焼戻し温度の影響が認められるが,これは微細炭化物の大きさ分布に起因するものであることが認められ,この大きさ分布と基材硬度の関係並びに微細炭化物の剥離機構について研究を継続中である.
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