研究概要 |
高強度鋼の疲労試験において得られるS-N曲線は高応力振幅・短寿命域の表面き裂発生型破壊のS-N曲線と低応力振幅・長寿命域の内部き裂発生型破壊のS-N曲線からなる二つのS-N曲線(二重S-N曲線)となり,超長寿命域の疲労信頼性設計法の確立に対して破壊モードの遷移と内部き裂発生型破壊の機構の解明は重要な課題である.長寿命域の非金属介在物を起点とする内部破壊において,介在物近傍に形成される凹凸の大きい領域(当該研究者らはGBF ; Granular Bright Facetと命名)は長寿命域の疲労破壊を支配する重要な因子であることを指摘した.本研究ではGBFの形成機構を中心に検討を行い,以下の成果を得た. 1.GBF領域は炭化物の大きさと同程度の凹凸が観察され,その外側領域に比較して粗さが大きい.またGBF領域には高濃度の炭素が検出された.粗さの程度は供試材の炭素含有量に依存し,負荷応力比の影響も受ける. 2.破面のトポグラフィを基にしたコンピュータ・シミュレーション(FRASTA法)により,内部破壊の再現が可能となった. 3.上述の実験及び解析を基に,GBF形成機構として「微細炭化物の離散はく離説」を提案した.これは疲労過程中に介在物周囲の微細炭化物がはく離して微小き裂が発生し,これらの合体・成長によってGBF領域が形成されるとするものである. 4.上記のGBF形成モデルは炭素含有量の異なる高炭素クロム軸受鋼(SUJ2),高速度工具鋼(SKH51),粉末焼結鋼(HAP10)及び合金鋼(SNCM439,SCM440)において実証された.また,回転曲げ疲労試験のみでなく軸荷重疲労試験から得られた破面においても成立することが確認された. 5.高強度鋼の二重S-N曲線は試験片表面の性状(表面粗さ),非金属介在物の大きさ,表面改質処理による硬さ及び残留応力の影響を受けることを明らかにした.破壊モードはこれらの影響を受けて変化し,とりわけ表面圧縮残留応力の影響を大きく受け,さらに負荷応力比にも依存することが明らかとなった.
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