研究概要 |
本年度は当研究の初年度であるので,基礎的データの収集を図った.すなわち,実在の残留応力の存在する試験片を用いず,残留応力の存在しない試験片の破面のフラクタル解析を主に行った.また,破面接触の重要性に鑑み,一部破面接触を考慮した疲労き裂進展シミュレーションも行った. (1)溶接用構造鋼SM400材から残留応力が存在しない二次元疲労き裂試験片を作成し,残留応力と等価な平均応力を負荷する疲労き裂進展実験を行った.実験条件は,破面接触が確実に発生する場合の実効応力比R=-2及び-1とした.また,比較のため全く破面接触しないR=0.5の場合を加え,合計3通りとした. (2)(1)の試験片の破面の観察を,走査型プローブ顕微鏡(SPM)(購入備品)を用いて行い,得られた破面のデータからBox-Counting法によりフラクタル次元Dを求めフラクタル解析を行った.その結果,当研究の走査域の範囲では,その走査域が大きくなるにつれDが徐々に大きくなり,その後一定値に飽和することが解った.また,走査域が20μmの場合,Rの増加に伴いDが小さくなる相関関係が存在することが解った.従って,この関係を用いて破面のフラクタル解析からその負荷状況を推定することの可能性が示され,また,フラクタル解析の有効性が示されたことになる.しかし,他の走査域において明確な相関関係が認められない疑問もあり,更なる研究が必要と思われる.さらに,応力拡大係数幅ΔKとDの関係も調べたが,RごとにΔKに対するDの傾向が異なる結果が得られた.これに対しても,更なる研究が必要と思われる. (3:追加)き裂進展シミュレーションは次年度の予定であったが,破面接触の状況を詳しく把握する必要性から,今年度一部試みた.その結果,破面接触により疲労き裂進展速度および方向が変化することが示唆された.紙面の都合上この詳細は次の機会に報告する.
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