研究概要 |
1.組織調整による疲労強度改善について 疲労き裂の発生と伝ぱに及ぼす逆変態オーステナイトの影響を、試験環境としての湿度の影響に注目して調べた。主な結果として、逆変態オーステナイトによりき裂発生及び伝ぱに対する湿度の影響は減少する。これは(1)組織境界にネットワーク状に分布した逆変態オーステナイトが水素のトラップサイトとなることで、材料表面への水分の吸着による表面エネルギーの低下、さらに水分から生じた水素が旧オーステナイト粒界の脆化を抑制したため、(2)軟質の逆変態オーステナイトが粒界への転位集積による応力集中を緩和し、き裂発生を抑制するため、さらにき裂先端における塑性誘起き裂閉口を通じて伝ぱを抑制するためと、環境への効果と力学的効果の2点から説明される。 2.表面改質と組織調整を同時に行うことによる疲労強度改善について 表面改質としてショットピーニング処理を行い、疲労特性、特に長寿命域における内部破壊域の疲労強度及び破壊機構に及ぼす逆変態オーステナイトの影響を調べた。主な結論。(1)ショットピーニング材の疲労寿命は,逆変態オーステナイトの生成により,表面破壊が生じる短寿命域では減少し,内部破壊が生じる長寿命域では逆に増加した。 (2)内部破壊の過程は,逆変態オーステナイトが存在しない場合,介在物より発生したき裂が平坦な破面(ファセット)を形成して伝ぱした後,旧オーステナイト粒界割れが生じ,その後表面き裂へ変化し,破壊した。一方逆変態オーステナイトが存在する場合,逆変態オーステナイトが存在しない場合と同様なき裂発生と伝ぱ過程を経たが,旧オーステナイト粒界割れが抑制され,その後ラス割れさらにブロック割れやパケット割れで内部き裂として伝ぱしてから表面き裂に変化し,破壊に至った。その結果,逆変態オーステナイトが存在する場合,内部き裂から表面き裂に変化した境界に,通常のフィッシュアイに相当する明瞭な痕跡が観察された。 (3)逆変態オーステナイトの生成により内部破壊域の疲労寿命が増加したのは,旧オーステナイト粒界割れが抑制され,その後も安定的な内部き裂の伝ぱ過程が存在したためである。
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