強誘電体固体材料が破壊する際に電磁波が放射されるという現象は、固体中のき裂生成問題に関する全く新しい計測パラメータとなりうる可能性がある。本研究はこの可能性を追求するために、研究初年度として以下のような準備と試験研究を実施した。 1.電磁放射の発生モデルの理論的解析 き裂生成に伴う電磁放射の発生モデルについて、新たに生成されたき裂面上に分離した正負の電荷の振動によって生じる電磁場をローレンツの理論に基づき解析し、き裂方位と大きさの効果を定量的に考慮した破壊による電磁放射発生モデルを導出した。 2.電磁放射計測装置の改善 電磁波計測では特に信号対雑音比(S/N)の向上が重要である。この問題に関して現有設備を以下のように改善し、それによる電磁信号の計測しきい値を明らかにした。 (1)極超低雑音増幅器の設計と試作 低雑音プリアンプ(仕様:増幅度20dB/40dB、周波数帯域500Hz〜1MHz、入力インピーダンス10MΩ/20pF、出力インピーダンス50Ω、ノイズレベル3nV/sqrHz)を試作し、電磁信号とAE信号との相関を得るための計測システムとして改良した。 (2)材料試験機試験セクションのシールディング さらに、試験機およびその周辺からの電磁的背景雑音を遮蔽するために、厚肉(25mm)のアルミニウム製チャンバーを設計・製作し、現有する材料試験機に装備した。 (3)前項(2)及び(3)の結果、従来60dB以上であった計測しきい値を40dBまで下げることが可能となった。 3.試験片の製作および計測試験 電磁信号とAE信号との相関を試験し、モデルの検証をするために、花崗岩試験片についてAE計測と併せた破壊試験を実施した。その結果、AEすなわち微視割れの発生と電磁放射の相関が認められ、あわせて、岩石の応力履歴の定量的な推定に、電磁信号の計測が極めて有効である知見を得た。
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