研究概要 |
この研究の目的はバイオナノマシンとして工学の領域から駆動及び潤滑機構のモデルとして,注目されているバクテリアべん毛モータの潤滑・駆動機構及び組立て機構としての自己組織化機構を解明することにある. これまでの研究によって,ナノマシンの世界では,従来の潤滑技術を用いたのでは良好な潤滑状況が構成することが困難であることがわかってきた.即ち従来非常に有効であると考えられた流体潤滑が,ナノマシンの世界では効率的な潤滑法ではないことが判明した.しかしながらバクテリアべん毛モータの軸受部の構造は,従来のジャーナル軸受と同じ構造が観察されている.(この構造はPLリングと呼ばれている)この類似性がたんなる見掛けのものかどうかを調べ,バクテリアべん毛モータの潤滑機構を解明するためにまず理論的な解析を行った.最流体潤滑理論に基づくべん毛モータ軸受部の解析によれば,バクテリアべん毛モータの軸受は従来の機械の軸受と構造的には類似しているが,実際は物理的に異なった潤滑機構を利用している可能性が高いことが示された.そこで,従来の流体潤滑に替わりコロイド溶液の安定性の原因である拡散電気二重層の効果を用いた潤滑機構の負荷容量計算の定式化を行った.そしてこの拡散電気二重層の効果によってPLリングに要求される負荷容量を生成できることを示した.この研究によって生物の潤滑機構をナノマシンの潤滑機構に応用できる可能性を示すことが出来た.べん毛モータには,この他にも機械のユニバーサルジョイントの役目を果たすフックと呼ばれる機構が存在する.我々はユニバーサルジョイント機構についても考察し,分子構造変化による新たな動力伝達機構の可能性を示唆した.バクテリアべん毛モータは高等生物の分化と異なり,自己組織化によってモータを構成する.ナノマシン組立て機構として応用を行なうために,この自己組織化過程について熱力学的な解析を行なった.
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