1.熱尖端流を利用した真空ポンプの数値解析 低圧下やミクロな系においては、気体が連続な物質ではなく、分子の集まりであることの効果-分子気体効果-が現れてくる。例えば、パイプに低圧の気体を入れ、一端を加熱し、もう一端を冷却すると、パイプ内の気体は加熱側に流れる(熱遷移流)。近年、この流れを駆動力とする、運動する部品が不要の真空ポンプ(クヌーセン型ポンプ)の開発が進められている。代表者の以前の研究では、この型のポンプを試作し、クヌーセン型ポンプとして初めて排気能力を実証した。しかし、試作機のエネルギー効率は低く、市販のポンプの1/1000程度であった。 代表者は、単一のパイプにヒーターとクーラーを隣接して取り付ける構造が低エネルギー効率の原因であると考え、1995年に青木らによって見出された執尖端流をポンプの駆動力として利用することを試みた。低圧気体の方程式(ボルツマン方程式)に基づくDSMC法によって、ポンプユニット内部のヒーターとクーラーの様々な配置について解析を行い、良好な能力を持つポンプユニットの構造を決定した。この新形式ポンプでは、ヒーターとクーラーは希薄気体中で分離しており、それぞれの表面温度は一様でもよい。このため、ヒーターからクーラーに流れるエネルギー損失を容易に小さくすることが可能である。 2.熱尖端流を利用した真空ポンプの試作 上記の数値解析で決定したヒーター・クーラー形状を基にして、熱尖端流を駆動力とした真空ポンプ装置を試作した。試作装置は、流路の断面積が36mm×36mm、長さ15mmの基本ユニットを10個直列に接続したものであり、前回の試作機と同じく10Pa程度の低圧で動作する。この装置の性能試験を行い、現在のところ、前回の試作機の1.5倍の消費電力で50倍程度の流量を得ることに成功している。この成果は、特許の出願を行っている。
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