1.熱尖端流を利用した真空ポンプの試作 低圧やミクロな系の気体においては、気体が分子の集まりであることの効果-分子気体効果-が現れる。例えば、パイプの内部に低圧の気体を入れ、パイプに沿って温度勾配を与えると、低温部から高温部へ向けて気体が流れる(熱遷移流)。近年、この流れを駆動力とする、運動する部品が不要な真空ポンプ(クヌーセンポンプ)の開発が進められている。代表者は、以前の研究で、クヌーセンポンプの試作試験を行い、このポンプのエネルギー効率が低く、実用化の障害となることを指摘した。 前年度の研究では、この問題に対して、駆動力として熱尖端流を用いた新型ポンプ(熱尖端ポンプ)を提案し、流れの解析を行った。本年度は、熱尖端ポンプの試作・試験を行った。同じエネルギー供給の下では、熱尖端ポンプの流量は、以前のクヌーセンポンプの50倍程度に達する。ただし、得られる圧力比が小さく、エネルギー効率の向上は、以前のクヌーセンポンプの値の6倍程度であることを確認した。 2.熱駆動型ポンプを利用した気体分離装置の解析 クヌーセンポンプ、熱尖端ポンプなどの「熱駆動型ポンプ」の内部では、流路の細管部分の径が気体分子の平均自由行程の程度であるときに動作する。この条件の下では、気体は連続体の性質を半ば失っており、混合気体の場合、気体の各成分が別々の流れ方を示す可能性がある。代表者はこの点に注目し、分子気体力学を用いて熱駆動型ポンプ内部の混合気体の解析を進め、この種のポンプが気体分離装置として動作することを見出した。例えば、熱尖端ポンプに均質な混合気体を入れ、ポンプの両端を封鎖した状態で運転すると、ポンプの高圧側では重い分子の濃度が上昇し、低圧側では軽い分子の濃度が上昇する。この現象は、今まで全く知られておらず、混合気体を分離する新しい方法として特許の申請を行った。
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