低圧やミクロな系の気体においては、気体が分子の集まりであることの効果-分子気体効果-が現れる。例えば、パイプの内部に低圧の気体を入れ、パイプに沿って温度勾配を与えると、低温部から高温部へ向けて気体が流れる(熱遷移流)。この流れを用いると、運動する部品が不要でMEMS化可能なポンプが可能になる。従来、この種のポンプとして、熱遷移流を用いた「クヌーセンポンプ」だけが知られていた。本研究では、別種の流れ-熱尖端流-を用いた「熱尖端ポンプ」を考案し、この種のポンプの実用上の課題の-つであるエネルギー効率を大幅に改善した。次に、数値解析によって、熱尖端ポンプで混合気体の成分を濃縮できることを示した。熱駆動型ポンプで気体濃縮効果が得られることは、本研究で初めて分かった現象である。 熱尖端ポンプを混合気体濃縮装置として実用化するには、ポンプの動作圧力が高い方が望ましい。しかし、熱尖端ポンプの流路のスケールは、気体分子の平均自由行程と同程度である。従って、例えば1気圧での動作を実現するには、流路のスケールは数μm程度になる。このような微細な流路を作成する場合、あまり精緻な流路構造を想定することは現実的ではない。今年度は、この点に注目して解析を進めた。熱尖端ポンプでは、流路内に尖った物体を置き、熱尖端流を発生させる。この熱尖端流の原理を再検討し、数値解析を用いて、熱尖端ポンプの流路形状に大きな自由度があることを示した。数値解析によると、尖端の曲率半径は、平均自由行程程度の大きさまで許容される。一方、熱尖端ポンプの流路スケールは、そもそも、平均自由行程の程度である。結局、流路内部の気体の温度を適正に保てる限り、流路の形状には大きな自由度がある。実際、多孔質を用いた熱尖端ポンプについて数値解析を行い、その動作が確認された。
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