研究概要 |
本研究では,火炎中で発生する粒子状物質の前駆物質である多環芳香族炭化水素を,測定するレーザー計測法を開発した.特に,従来からあるレーザー誘起蛍光法と分光分析法を結びつけて,多環芳香族炭化水素から得られる蛍光スペクトルに関するデータを収集し,実際の火炎場で観察されるスペクトルデータから,これら多環芳香族炭化水素の同定を行う方法の確立を目指したレーザー誘起蛍光法はレーザー光を物質に照射して励起し,その後に発せられる励起光を検出することで,その物質の同定を行う方法である.この方法を多環芳香族炭化水素に応用する場合,多環芳香族炭化水素はベンゼン環の数や結合状態によって,基準振動状態が異なり,照射光に対する吸収感度や蛍光スペクトル構造が微妙に異なっている.そこでまず,さまざまな多環芳香族炭化水素の蒸気に対して,種々の波長のレーザー光を照射し,得られる蛍光のスペクトルに関する詳細なデータベースを作製した.次に,このデータベースを基に実際の燃焼場から得られる蛍光スペクトルの形状を解析して,燃焼場内での多環芳香族炭化水素の同定を行う方法を導入した.その結果,蛍光スペクトルのピーク波長から多環芳香族の構成炭素数を推定できることがわかった.特に,実際の火炎中での計測結果から,すす粒子が発生する領域の直前では,炭素数が18〜26程度の多環芳香族炭化水素が存在することが推定できた.また,このような推定法と同時に多環芳香族蛍光の緩和時間とすす粒子の赤熱発光時間の差を利用して,両者の像を分離する方法も開発した.さらに,実際の内燃機関における燃焼を想定して液体燃料の拡散火炎中の多環芳香族炭化水素についても蛍光スペクトルの観察を行った.その結果,ガス燃料の場合と同様にすす粒子が発生する直前の多環芳香族炭化水素の炭素数はおよそ18〜26程度であることが確認できた.
|