研究概要 |
本研究は,加熱された表面近傍に生ずる近接場光をナノスケールの隙間(ナノギャップ)を介してGaSb系の熱光起電力電池(Thermophotovoltaic Cell : TPV Cell)へ導き電力を得る,ナノサイズ発電システムについて検討したものである.マクスウェルの電磁波理論からすると,電気双極子からの距離が,対象とする光の波長の2分の1となると,その電磁波エネルギーは,光の波長以上に離れた位置の電磁波エネルギーの約3倍に達し,10分の1になると実に40倍にも達する.このTPV電池の感度波長は可視光(赤色光)から波長1.85μmの近赤外線であることから,加熱表面を数百ナノメートルまで電池表面に近づけることにより,高い電磁波エネルギーとなる近接場光領域を利用した発電が期待できることがわかった.また,入手したGaSb系の電池表面の粗さを顕微鏡光干渉表面粗さ計で測定したところ,自乗平均粗さは50nm以下であり,測定長さ5mmにおけるうねりも約100nm以内に収まっていることから,ナノスケールの隙間を介した発電システムが構築できることが明らかとなった.なお,入手した電池の表面積は,縦8mm×幅20mmと大きく,全域をナノスケールの隙間とすることが困難であるため,その一部(縦8mm×幅2mm)を利用した発電システムを真空容器内部で構築することとした.このとき,電池表面には縦方向に金製の電極(縦8mm×幅0.02mm)が幅方向に0.3mmピッチで設置されており,照射面積を縦8mmで一定とし,その幅を大きくするにつれ出力電力もそれに比例して増大した.したがって,この電池の一部を用いてもその特性を損なうことなく実験可能であることがわかった.これらの結果を基に,高精度6軸マイクロメーターを組み合わせ,ナノスケールの隙間を自在に制御できる実験装置の設計を行った.
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