研究概要 |
国際テニス連盟(ITF, The International Tennis Federation)は,コートの条件に応じて試験的に新しい2種類のボールを導入することを決めた.室内コートや天然芝のような高速コートでは現在のボールより直径を約6~8%大きくして球速を抑え,逆にクレーコートのような球足の遅いコートではスピードが出るボールを使用し,また,中間のコートでは通常のものを使用するという試みである.新ラージ・ボールの導入は,男子テニスのスピード化によりラリーが続かなくて見て面白くないという状況に対する歯止めであり,プレイヤにとっても観客にとってもテニスの魅力と楽しみを増そうという意図である.しかし,ウインブルドン(全英)選手権では,まだ使用されていない.本研究は,ITF主導によるラージ・ボール導入の影響に関する一連の研究の一部として実施したプレイヤの上肢に加わる衝撃振動の測定経験を基にして,さらに詳細な実験と理論解析を行い,プレイヤの上肢の衝撃振動におよぼすラージ・ボールの影響を定量的に研究した.主な結果は以下のようになる. (1)ラージ・ボールとノーマル・ボールをフォアハンド・ストロークで打撃したときのラケット・ハンドルと手首関節の衝撃振動を予測した結果は実測波形の特徴を比較的良く表した. (2)オフセンタ打撃でもセンタ打撃でも,また,ストリングス初張力が異なる場合も,ラージ・ボールとノーマル・ボールには大きな違いがないという実験結果を裏付けることができた. (3)したがって,ラリーにおけるラージ・ボールは空気抵抗の増大により速度が低減し,その結果,インパクト条件が同じであれば,腕系の衝撃振動も低減することになる. (4)ラージ・ボールは,ノーマル・ボールの場合に比べて,衝突力はわずかに小さく,接触時間はやや長い.
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