車両の衝突事故において、乗員の肺と肋骨の相対量を安全な値に制限できれば後遺症の発生が抑えられる。そこで本研究では、シートベルトの張力を瞬時にコントロールするアクティブシートベルトを提案した。昨年度は制御系を構築、その性能を数値シミュレーションにより確認し、胸部モデルのみを自由落下させる実験装置により衝突時の変形が制御可能であることを示した。本年度は昨年度の成果を踏まえ、アクティブシートベルトを模擬した模型を製作、制御実験を実施し、以下の知見を得た。 1.張力制御用アクチュエータを、静摩擦の影響が最小限に抑えられるよう斜めに配置された片側12本のローラーを介してワイヤが巻かれたプーリーを両側からディスクではさみ、アクチュエータで圧縮することにより摩擦を制御してワイヤの張力を変化させる構造に改良した。その結果、4.14〜9.44Nの範囲で傾き0.53N/Vのほぼ線形な特性が得られた。その際、摩擦を変化させるアクチュエータに関して圧電型と超磁歪型の2種類を比較した。その結果、超磁歪型は構造上衝撃に強いが大きな電流を必要とし、重量の割にひずみが小さいことから変化させられる張力の範囲が狭くなることなどが判明した。そのため、本実験では圧電型を用いるが、実用化に際しては衝撃に強い超磁歪型の使用を再度検討する必要がある。 2.実際の衝突の1/10の減速度を実現するリニアモータ台車上に、非線形ばねで結合された2つのブロックで構成される胸部モデルを載せたリニアガイドと張力制御用アクチュエータを配置し、アクティブシート模型を製作した。制御実験により、胸部モデルの変形を目標値に収束させられ、アクティブシートベルトが実現可能であることを示した。しかし、張力制御用アクチュエータの制御範囲を0Nまで下げられないことから収束に時間がかかり、変形が目標値を超えてしまう問題が残された。張力制御用アクチュエータのさらなる改良が今後の課題である。
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